生活安全情報《東洋医学(中国伝統医学)について~その1~》
日本ではあまり馴染みのない東洋医学ですが、漢方、鍼灸と言えばほとんどの方はご存知のことと思います。今日は、皆さんに東洋医学(中国伝統医学)についてご紹介させていただきたいと思います。少し長くなりますが、最後まで、お読みになっていただければ幸いです。
まずは皆さんに比較的馴染みのある鍼灸からご説明したいと思います。中国では日本と違い、鍼灸師という職業がありません。そのため、鍼灸を専門にしているお医者さんでも漢方薬を処方することができます。
鍼灸治療において重要なのが、ツボ(穴位)です。私たちの体にはいくつのツボがあるかご存知ですか?365個ものツボがあるのです。ツボは頭から足の裏まで、すべての場所において存在します。ツボは経路と言われている道の上に存在します。面にこの経路は12本あります。それぞれにきちんと名前があります。手太陰肺経、手厥陰心包経、手厥陰心経、手陽明大腸経、手少陽三焦経、手太陽小腸経、足陽明胃経、足少陽胆経、足太陽膀胱経、足太陰脾経、足厥陰肝経、足少陰腎経、の12本です。見ていただいておわかりの通りそれぞれに五臓六腑の名前がついていますね。そのため、それぞれの臓器に問題が出た時には、これらに経路上のあるツボに針を打ちます。
この12本の経路は簡単に言うと、バスの路線のような役割をしています。始発駅と終着駅があるのと同様に、経路にもそのようなものが存在します。私たちが日頃いろいろな症状に悩まされるのは、この経路が詰まってしまっているからです。皆さんもバスに乗ったときなどに交通事故の影響で渋滞に遭遇したことがあるかもしれません。その時には交通警察が来るのを待って、渋滞が解消されるのを待つしかないのですが、それと全く同じことが経路でも起きています。それにより、皆さん体のどこかが痛い、だるい、辛いなどと言った症状が出てきます。また、内科においてもこれらの経路が詰まってしまったせいで、色々な症状の原因になります。中医の治療では渋滞を解決するのと同様に、患者さんのそれぞれの体質にあわせて、鍼灸や、漢方薬を使用して、症状を取り除きます。(もしこれをお読みになっていらっしゃる方で、ご自分の症状の改善方法、体質についてお知りになりたい方は、直接私の方に聞いていただければ詳しくご説明させていただきたいと思います。)
私自身、患者さんを診察していて感じることですが、患者さんの大多数が鍼灸に対して恐怖心をもっておられます。もちろん鍼灸を受けて全く痛みがないわけではありませんが、ただ、皆さんの想像されている採血時のような痛みとは全く異なります。鍼灸に使われる針は非常に細くなっていますので、わずかに皮膚に刺した瞬間痛みがある程度です。決して皆さんが想像されているような痛みではないので、ご安心ください。
鍼灸の優れているところは痛みの症状において、即効性が見られるということです。ぎっくり腰や寝違いの患者さんも大抵1回から3回の治療で完治されます。ゴルフの最中にぎっくり腰になり他人の支えなしでは歩くことも辛かった患者さんが、腕に一本針を打つことで、自力でしゃがむことまでできます。このように針は副作用もなく非常にたくさんの症状を改善することができます。もちろん鍼灸で慢性病も治療できますが、この場合は慢性病になった期間に応じて一定の時間を必要とします。
次に漢方薬について紹介したいと思います。今年の新聞の一部でも取り上げられていましたが、WHOが今年の春の会議で、鍼灸と漢方を医学として認定する予定が決まり、予測ですが、これからますます日本でも中医が浸透することと思いますので、皆さんにも正しい知識をもっていただきたいと思っています。
皆さんは日本で漢方を飲まれたことがありますか?漢方薬を煎じてくれるところはほとんどないというのが現状かもしれません。実際に飲まれたことのある漢方薬は粉末だったり顆粒だったりと固形状のものが多いと思います。
煎じた漢方が普及しにくい理由はいくつかあるとは思いますが、一つには、漢方薬を煎じることは時間がかかる上に処方によっては患者さん自身が煎じることに難度があります。例を挙げますと、漢方薬の一種で阿胶(ejiao)という薬があります。ロバの皮を煮込んで作られたものですが、この薬は中医で血虚(けっきょ)という症状があり、血を作る作用がありますが、非常に粘り気が強く素人の方が煎じると焦がしてしまうことも多く、高価な薬(ちなみに北京の同仁堂では10g800円程度で売られています。)で、煎じることの難しい薬の一つです。
もう一つの理由は不便性にあります。煎じるということは液体として飲むということになりますし、一般的に漢方薬は一日2回朝と晩、食後に温めてから飲みます。現代人の生活リズムにおいて朝早く食事もとる時間も難しく、出勤して夜も遅くまで残業や接待となると、一日のうちで、薬を飲む時間をとるのも難しい方もいらっしゃるかもしれません。さらに液体の漢方薬は一つ一つ密閉包装をしているのですが、夏場など気温の高い季節は変質しやすくなるので、必ず冷蔵保存しなければいけなくなります。また服用時にもいくつかの注意点などもあり、そういった不便さを感じてしまうといった点なども、浸透しにくい理由かもしれません。
ただ、漢方は自然の中にある植物や木の葉、根っこなどを原材料にしているので、体への負担が少なく症状を改善できます。皆さんが子供の頃医者のかかると、100%といってよいほど、西洋薬を処方されたのではないでしょうか?私自身も中国へ来て中医を勉強するまでは、皆さんと同じように西洋薬を処方してもらっていました。ただ、西洋薬のほぼすべてにおいて、薬の性質が冷たいものになります。中医では冷たいものは体を冷やし、冷えた体はたくさんの症状をもたらします。いくつか例に挙げますと、アレルギー体質、生理痛、癌、免疫力の低下、肥満など現代社会において、多くの方がこのような病気にかかっています。これらすべてが体の冷えから来ていることを忘れないでください。体を冷やす習慣を続けていると、最終的には冷えた体質になってしまいます。
日本で外食をしたときに温かいお湯をだされたことがあるでしょうか、ほとんどの場合冷たいお水が出てきます。こういった習慣が知らず知らずのうちに体をひやしていくのです。実際に中医の起源である中国でさえも、西洋文化の浸透により、日本人同様の問題が生じています。最近で多いのは、花粉症と鼻炎です。中国では日本とは違い杉などの木が比較的少ないにも関わらず、年々患者数が増えています。クーラーの環境が増えたこと、冷たい食べ物を以前よりも好んで食べるようになったこともそういった要素を引き起こしている原因かもしれません。
また、花粉症を例にあげますと、10人の人が同じ地域で生活していても、花粉症になってしまう人とそうならない人がいます。それは体質や免疫力の強さに違いがあるからです。同様のことが風邪や、インフルエンザにも当てはまります。ただ、体質改善や免疫力の強くすることは可能です。そして、すべての病気の症状は生活習慣からきている場合が多いので、皆さんもご自身の生活習慣が正しいものかどうか見直してみてください。そしてご自身でも改善しにくい分野は信頼できる医師に相談してください。またこれから治療をされるときには中医を治療の選択肢に入れてみてください。
今回このような機会をいただき、簡単にですが中医のついて述べさせていただきました。不十分なところもあるとは思いますが、少しでも皆さんのこれからの北京での生活にお役に立つことが出来れば幸いです。
北京心和堂 中医医師 豊田 聡