2024年度 北京新生活安全サポート情報 No.2/6
ご存知のように感染症の予防手段のひとつとして、ワクチン接種は非常に重要です。接種を受けた方の感染/発症/重症化を予防する効果だけでなく、多くの人がウイルスへの抗体を持つことで社会全体が守られる「集団免疫の効果」があるとされています。予防接種によって免疫が得られる割合はワクチンにより異なりますが、重症化を防ぐ意義もありますので、特に海外で生活する場合には、あらかじめ接種を受けておくことをおすすめします。本稿では北京で生活する際の予防接種について注意すべきことをご紹介します。
1.予防接種の記録をきちんと保管する
ワクチン接種により体内でつくられる「抗体」には、一度できれば十分な量が一生持続するものもありますが、5年、10年でその量が減り、効果が続かないものもあります。そのため、正確な接種日時を知っておくことが重要です。また国によって基準が異なることから、ワクチンを接種する際や抗体強化の有無を判断する際には、必ずこれまでの接種記録を確認する必要があります(接種年月日の記載のある記録が提示できないと接種不可となることもあります)。このように大変重要な記録ですので、母子健康手帳や予防接種済証、ワクチンノート等は大切に保管しましょう。大人の方ですと、ご実家に預けたままで手元においておられない方もおられますが、できるだけ生まれてから現在までの接種記録を全て、ご自身で管理するようになさってください。原本が無くても、コピーや写真を持っておくと良いでしょう。
2.小児の予防接種の内容は国ごとに異なる
小児の定期接種の考え方は国によって異なりますが、今の日本の予防接種はどこの国で過ごすにも非常に基本的なものなので、全てを確実に打っておかれることをお勧めします。更に、生活する国・地域の実情に合わせて必要な予防接種を受けてください。日本と中国では定期予防接種の対象やスケジュールが異なりますので、中国で予防接種を受ける際は医師によく相談してください。複数回接種のものも、途中まで日本で接種しておき、残りを北京で接種することも可能ですし、一時帰国した際に接種を受けても良いでしょう。いずれにしても、予防接種の記録を母子手帳などに忘れずに記載し、定期健診の際には必ず持参するようにしましょう。ただし、海外旅行保険をご利用の場合、通常「予防医療」は適用外となります。
3.大人の方も接種の抜け落ちに注意
日本の予防接種はここ10年ほどで随分整ってきました。逆を言えば、それまでは「予防接種後進国」とも言われていました。日本の方で接種の抜け落ちが多いワクチンは下記の通りです。
(1) 麻疹
「はしか」と呼ばれる感染症です。現在、日本では2回接種が定期化されていますが、大人の方は接種していない方も少なくありません。1回の接種では不十分ですので注意が必要です。北京ではMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを使用し、6歳までに3回接種することになっています。
(2) 風疹
麻疹と同様、2回接種が必要です。日本では30、40代の妊娠出産期にあたる世代に免疫が不十分であることが大問題となっています。ご本人だけでなく、ご主人も感染源になりえますので、これから妊娠出産を計画しておられるご夫婦には「2回の接種」があるかどうかの確認を強くお勧めします。追加接種することも可能ですが、北京ではMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを使用します。
(3) ムンプス
いわゆる「おたふくかぜ」で、基本的には生涯2回接種が必要です。北京ではMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを使用します。
(4) 水痘
水痘(いわゆる「みずぼうそう」)のワクチンが日本の定期接種に加わったのは2014年10月で、対象も1~3歳になる直前まで、というかなり限定された期間での定期接種になっています。そのため大人でも子どもでも、打っていない方が少なくありません。基本的には生涯2回接種が必要です。特に水痘にかかったことのない13歳以上の方は急いで接種されるよう、お勧めします。
(5) 日本脳炎
ブタと蚊を媒介して感染する、つまり蚊に刺されて起こる脳炎ですが、死亡率が高く、後遺症(発達の遅れなど)も高率で発生します。定期接種での抜け落ちが考えられる地域は北海道です。北海道では以前、流行が無かったために定期接種の対象となっていませんでした(2017年4月まで)。北海道で幼少期を過ごされた方は接種されていない可能性が高いので、注意してください。3回の基礎接種があれば、その後は5年に1回程度の追加接種で免疫が維持できるとされています。
(6) 破傷風
土壌に普通に住んでいる菌で、錆びた釘を踏抜くなど、傷口が汚れた場合に感染します。発症すると呼吸筋麻痺で人工呼吸器管理になるなど致死性の高い病気です。予防接種されていなくても外傷後に破傷風グロブリン製剤を打つ、という方法が取れますが、そもそも中国の地方都市では製剤が手に入らない可能性が高いので、やはり予防接種で免疫をつけておく必要があります。日本では四種混合ワクチンのなかに含まれています。しかし3種混合やDTPが定期接種になる前の世代の方は感染リスクがあります。全国的に接種が開始されたのが1968年なので、1968年以前に生まれた人は免疫がない可能性が高いといえます。3回接種し基礎免疫を得た後は5年から10年おきに1回の追加接種が必要です。
4.中国生活スタートに合わせて打ちたい予防接種
日本人で接種率が低いワクチンの中で重要性の高いものをピックアップします。中には世界的に必須になっているものが含まれ、可能であれば接種しておかれることをお勧めします。
(1) A型肝炎
食べ物を介して口から感染する肝炎です。食品衛生のある程度整っている北京、上海でも必須とされています。日本(任意接種)では3回接種となっていますが、北京では2回接種です。
(2) B型肝炎
体液を介して感染する肝炎です。感染経路としては、輸血、違法注射、そして最も多いのが性交渉です。中国ではB型肝炎のウイルス保有率が高い(10%ほど)ため、中国で性風俗を含めて性的接触があるなら予防接種が必須です。また感染力がとにかく強くHIVウイルスの100倍ほどあり、歯ブラシの共用でも感染すると言われています。WHO(世界保健機構)は「全ての人が受けておくべきワクチン」としていますが、日本では2016年10月からようやく定期接種となりました。3回接種が必要です。
(3) 腸チフス
サルモネラの一種によっておこる病気です。やはりA型肝炎同様、汚染された食品が感染経路となりますが、人から人にも伝染していきます。重症例では亡くなる場合があります。特に地方出張で衛生の良くない場所で食事をする機会がある方などは予防接種が勧められますが、ワクチンを扱っている医療機関は多くないようです。
(4) 狂犬病
犬に限らず、猫、コウモリ、狐など様々な哺乳類に噛まれることで感染します。発症するとまず100% 死んでしまう病気ですが、一応「北京市街地で過ごす旅行者」の場合は、積極的な接種までは推奨されていません。ただし、郊外へ行く機会や動物との接触が多い場合には、予防接種を受けておかれたほうが安心です。破傷風と同様、曝露後(噛まれた後)は早急に狂犬病グロブリン製剤を打つ必要がありますが、やはり地域によっては対応できる医療機関が少ないこともありますので、その点を考慮すると予防接種を受けるメリットはあると言えるかもしれません。北京市内でも狂犬病予防接種ができる施設(中国語で「北京市狂犬病免疫予防門診」)はそれほど多くありませんが、外資系では北京ユナイテッドファミリー病院(中国語で「北京和睦医院」)が接種可能な病院となっています。
予防接種に関して疑問点などあれば、予防接種を実施している医療機関にご相談ください(北京日本倶楽部ホームページの「市内医療機関リスト」をご参照ください)。
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文責:北京ユナイテッドファミリー病院 日本部