《北京で生活する際の予防接種のポイント》

2022-06-22

北京新生活安全サポート情報 No. 2/6

《北京で生活する際の予防接種のポイント》

近年、新生ウイルスの種類が増えたことから、新しい感染症も増加しています。例えば現在全世界で流行しているコロナウイルス感染症もその一つです。ご存知のように感染症の予防手段のひとつとして、ワクチン接種は非常重要です。予防接種の目的には、自らが病気にかかりにくくなることだけでなく、社会全体における流行を防ぐことも挙げられます。予防接種によって免疫が得られる割合は100%ではなく、ワクチンにより異なりますが、重症化を防ぐ意義もありますので、特に海外で生活する場合には、あらかじめ接種を受けておくことをお勧めします。北京は国際大都市として積極的な予防接種を推奨しています。北京で生活する際の予防接種について注意すべきことを以下にご紹介します。

 

  1. 予防接種の記録をきちんと保管する

ワクチン接種により体内でつくられる「抗体」には、一度できれば十分な量が一生持続するものもありますが、5年、10年でその量が減り、効果が続かないものもあります。そのため、正確な接種日時を知っておくことが重要です。また国によって基準が異なることから、ワクチンを接種する際や、抗体強化の有無を判断する際には、必ずこれまでの接種記録を確認する必要があります(接種年月日の記載のある記録が提示できないと接種不可となることもあります)。ですので、母子健康手帳や予防接種済証、ワクチンノート等は大切に保管しましょう。大人の方ですと、ご実家に預けたままで手元においておられない方もおられますが、できるだけ生まれてから現在までの接種記録を全て、ご自身で管理するようになさってください。原本が無くても、コピーや写真を持っておくと良いでしょう。

2.小児の予防接種の内容は国ごとに異なる

小児の定期接種の考え方は国によって異なりますが、今の日本の予防接種はどこの国で過ごすにも非常に基本的なものなので、全てを確実に打っておかれることをお勧めします。更に、生活する国・地域の実情に合わせて必要な予防接種を受けてください。日本と中国では予防接種スケジュールが異なりますが、途中まで日本で接種しておき、残りを北京で接種することも可能ですし、一時帰国した際に接種を受けても良いでしょう。いずれにしても、予防接種の記録を母子手帳などに忘れずに記載し、定期健診の際には必ず持参するようにしましょう。ただし、海外医療保険をご利用の場合、通常「予防医療」は適用外となります。

〔一般的なワクチンの名称〕

日本語 中国語 英語
B型肝炎 乙型肝炎疫苗 Hepatitis B
A型肝炎 甲型肝炎疫苗 Hepatitis A
BCG 卡介苗 BCG
3種混合

ジフテリア

破傷風

百日咳

三聯疫苗

白喉

破傷風

百日咳

3 in 1

Diphtheria

Tetanus

Pertussis

4種混合

ポリオ

ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザ菌B型)

四聯疫苗

脊髓灰質炎疫苗

B型流感嗜血杆菌疫苗

4 in 1

Polio

Hib

MMR

はしか

おたふく風邪

風疹

麻風腮

麻疹

流行性腮腺炎

風疹疫苗

MMR

Measles

Mumps

Rubella

水ぼうそう 水痘疫苗 Varicella
肺炎球菌 肺炎球菌疫苗 Pneumococcal
日本脳炎 乙型脳炎疫苗 Japanese Encephalitis
髄膜炎 流行性脳脊髓膜炎疫苗 Meningococcal

3.大人の方も接種の抜け落ちに注意

日本の予防接種はここ10年ほどで随分整ってきました。逆を言えば、それまでは「予防接種後進国」とも言われていました。日本の予防接種制度上で抜け落ちが起きている部分は下記の通りです。

(1) 麻疹

世界的にみても小児の死亡原因の上位に入る病気で、実際に死亡者の殆どが5歳未満です。非常に感染力が強く、結核と並んで空気感染をする病気として有名ですが、一方で予防接種で予防できる病気の代表でもあります。2回の予防接種が必要で、2回予防接種を受けたかどうかは、明確に記録が残っている必要があります。しかし、日本では予防接種行政上、1回しか接種をされていない世代があり(主に30代以降の世代)、2回の予防接種記録が残っていない方には追加の予防接種を強くおすすめします。北京ではMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを使用し、6歳までに3回接種することになっています。

(2) 風疹

風疹は症状が軽く、それだけでは重症化することが少ない病気です。しかし妊婦さんに感染した場合、胎児に先天性風疹症候群という重い障害を高頻度で起こし、社会的に大きな問題になっています。これも麻疹と同様、生涯2回必要であり、接種が不十分であった世代も同様です。30〜40代のこれから妊娠を考える方に免疫が不十分であることが大問題となっています。ご本人だけでなく、ご主人も感染源になりえますので、これから妊娠出産を計画しておられるご夫婦には「2回の接種」があるかどうかの確認を強くお勧めします。追加接種することも可能ですが、北京ではMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを使用します。

(3) ムンプス

いわゆる「おたふくかぜ」です。日本では未だに定期接種に加わっていませんので、ご両親が意識をしていないと接種していない予防接種です。以前から難聴を後遺症として残すことは知られていましたが、2018年に300人弱に1人とかなり割合が高いことが報告され衝撃を与えました。そのうち8割以上が高度難聴ですので、注意すべき疾病と言えます。基本的には生涯2回接種が必要です。北京ではMMR(麻疹・風疹・ムンプス)ワクチンを使用します。

 (4) 水痘

いわゆる「みずぼうそう」ですが、脳炎での死亡例が低頻度ながらあります。さらに年齢が上がるに連れて重症度が上がり、13歳以上では高頻度で入院、重症例も増えます。また低頻度ですが妊婦さんが感染すると風疹のように胎児に障害を残す疾患です。水痘が日本の定期接種に加わったのは、ごく最近の2014年10月からです。それも1~3歳になる直前まで、というかなり限定された期間での定期接種になっています。そのため大人でも子どもでも、打っていない方が少なくありません。基本的には生涯2回接種が必要です。特に水痘にかかったことのない13歳以上の方は急いで接種されるよう、お勧めします。

(5) 日本脳炎

ブタと蚊を媒介して感染する、つまり蚊に刺されて起こる脳炎ですが、死亡率が高く、後遺症(発達の遅れなど)も高率で発生します。日本では3歳以降に接種する方が多いと思いますが、自治体からの案内等で3歳とされていても、医学上は3歳未満でも接種できます。定期接種での抜け落ちが考えられる地域は北海道です。北海道では以前、流行が無かったために定期接種の対象となっていませんでした(2017年4月まで)。北海道で幼少期を過ごされた方は接種されていない可能性が高いので、注意してください。3回の基礎接種があれば、その後は5年に1回程度の追加接種で免疫が維持できるとされています。

(6) 破傷風

土壌に普通に住んでいる菌で、錆びた釘を踏抜くなど、傷口が汚れた場合に感染します。発症すると呼吸筋麻痺で人工呼吸器管理になるなど致死性の高い病気です。予防接種されていなくても外傷後に破傷風グロブリン製剤を打つ、という方法が取れますが、そもそも中国の地方都市では製剤が手に入らない可能性が高いので、やはり予防接種で免疫をつけておく必要があります。日本では四種混合ワクチンのなかに含まれています。しかし3種混合やDTPが定期接種になる前の世代の方は感染リスクがあります。全国的に接種が開始されたのが1968年なので、1968年以前に生まれた人は免疫がない可能性が高いといえます。3回接種し基礎免疫を得た後は5年から10年おきに1回の追加接種が必要です。

4.中国生活スタートに合わせて打ちたい予防接種

日本の過去のルーチン以外で重要性の高いものをピックアップします。中には世界的には必須になっているものが含まれ、可能であれば接種しておかれることをお勧めします。

(1) A型肝炎

食べ物を介して口から感染する肝炎です。食品衛生のある程度整っている北京、上海でも必須とされています。日本では3回接種となっていますが、北京では2回接種です。

(2) B型肝炎

体液を介して感染する肝炎です。感染経路としては、輸血、違法注射、そして最も多いのが性交渉です。中国ではB型肝炎のウイルス保有率が高い(10%ほど)ため、中国で性風俗を含めて性的接触があるなら予防接種が必須です。また感染力がとにかく強くHIVウイルスの100倍ほどあり、歯ブラシの共用でも感染すると言われています。WHO(世界保健機構)は「全ての人が受けておくべきワクチン」としていますが、日本では2016年10月からようやく定期接種となりました。3回接種が必要です。

(3) 腸チフス

サルモネラの一種によっておこる病気です。やはりA型肝炎同様、汚染された食品が感染経路となりますが、人から人にも伝染していきます。重症例では亡くなる場合があります。特に地方出張で衛生の良くない場所で食事をする機会がある方などは予防接種が勧められますが、ワクチンを扱っている医療機関は多くないようです。

(4) 狂犬病

犬に限らず、猫、コウモリ、狐など様々な哺乳類に噛まれることで感染します。発症するとまず100% 死んでしまう病気ですが、一応「北京市街地で過ごす旅行者」の場合は、積極的な接種までは推奨されていません。ただし、郊外へ行く機会や動物との接触が多い場合には、予防接種を受けておかれたほうが安心です。破傷風と同様、暴露後(噛まれた後)は早急に狂犬病グロブリン製剤を打つ必要がありますが、やはり地域によっては対応できる医療機関が少ないこともありますので、その点を考慮すると予防接種を受けるメリットはあると言えるかもしれません。北京市内でも狂犬病予防接種ができる施設(中国語で「北京市狂犬病免疫予防門診」)はそれほど多くありませんが、外資系では北京ユナイテッドファミリー病院(中国語で「北京和睦医院」)が接種可能な病院となっています。

予防接種に関して疑問点などあれば、予防接種を実施している医療機関(北京日本倶楽部ホームページの「市内医療機関リスト」でご確認下さい)にご相談ください。

文責:生活環境委員会

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